部屋を出ようとした扉の隙間に挟まっていた小さなカード。

「何かしら・・・・・・・これ」

それを手に取り文字を読む。



『夜光の姫君をシュトラールにて待つ』







Sweet Kiss BALFLEAR







こんな事をするのは彼しかいない、間違いなく。
「相変わらずのフェミニスト」だなぁ、と感心しながら指定されたとおりの場所へと赴いた。
シュトラールに乗り込み操縦室へと進んでゆく。
カタンと靴底が音を鳴らすと一番前の席に座っていた彼が後ろを見ずに問いかける。

「悪いが今夜は貸切だ」

「乗車券なら持ってるけど、それじゃダメかしら?」

「念の為確認しておくか」

「ええ、どうぞ」

後ろの席から彼の目の前にカードを差し出すとバルフレアはの細い手首を掴んだ。
誘導するように手を引き、入れ替わるようにバルフレアの前にはの顔。
合言葉のように相手への愛情を口にして、啄むように何度も施す口付け。
僅かにそれが離れた時がそっと指先で遮る。

「キスもいいけど渡したいものがあるの」

「何だ?」

と、分かっているくせにそうやって知らないフリをする。
だからこそ私が来るのをわざわざ待ってくれていたんだろう。

「開ければ分かるわよ?」

包みを両手で差し出して微笑む
受け取ったバルフレアがリボンをするりと解いてゆく。
中身を目にして短く口笛を吹いて優しく微笑みを返してくる。

「俺に愛の告白か」

「ちょっとだけ緊張してるの」

クスクスと楽しそうに笑う彼女の胴に腕を回し、
バルフレアは背中から抱きしめるような形でを自分と同じ席に座らせた。
狭くともそれがかえって心地よくて、艶のあるその髪に唇を落とす。

「これじゃ、バルフレアの顔が見えない」

「いいさ。代わりに声が近くで聞こえるだろ」

「私まだ告白してないのに」

「だったら一緒にするか」と、バルフレアがいつの間にか手にしていた小さな箱。
それはがあげた物とは別の物だった。

「え・・・?何??」

「何って、今日はバレンタインだろ」

「うん、そうね」

「男があげてもいいって知らないのか?」

「違うの・・・その、男の人から初めて貰った・・・」

「見え透いた嘘か?」

「嘘って?どういう」

「男にモテる顔してるのにって事だ」

「・・・・バルフレア。私の事見縊りすぎよ」

「どういう意味でだ?」

「もしそうならここに居ないんじゃないかな」

身を捻ってバルフレアの顔を横目で見上げる。

「一途なの」

「だからここに居るんだろ」

「・・・・・・?」

「脇目も振らず俺のところまで来たって事さ」

「・・・・・・私、恥ずかしいんだけど。。。」

「そうみたいだな」

耳まで赤くなっていると、わざとらしく言ってみせるバルフレア。
立ち上がろうとしたを頬にキスしてなだめてまた元いる場所へ。

「これ、開けてもいい?」

「ああ」

箱の蓋を取れば綺麗に形作られたチョコレートが四つ。

「食べるのが勿体無いわ。取っておこうかな記念に」

「変な奴。食べて貰う為にやるんだろ」

「うーん。そう。。。なのかしら」

「違うのか?」

「でもやっぱり食べて貰いたわ」

「だろ。だったら頂くとするか」

うん。と頷いたの左手にはバルフレアから貰ったチョコレート。
そして右手には何故か彼にあげた筈のチョコレートが箱ごとのせられた。

「??何これ。どういう−」

「・・・・落とすなよ」

ポツリとそう耳元で囁く

「?!―ちょと、バルフレアッ!!」

「食べてって言わなかったか?」

「ち、違う、それはチョコレートの話よ!?」

「結局チョコは『おまけ』だろ。のな」

「そんな事言って本当はどっちかしらね・・・」

ふいっと顔を逸らしたを楽しそうに見つめ「ああ、そうだ」と思い出したように話をする。

「なぁ、知ってたか」

「・・・・何が・・?」

「俺が好きなものは先に食べる方だって」


口もとに笑みを浮かべる彼の顔が私に諭す。
甘い言葉に誘われたのはそこに在るものが何かを知っているからだろと。

だから反発する言葉はすぐに口付けへと変ってゆく―